現代の経営(下)

現代の経営(下):1954年 第28章:意思決定を行うこと

平成23年5月19日

<小見出し>

  • 戦術的な意思決定と戦略的な意思決定
  • 問題の理解
  • 問題の分析
  • 複数の解決案の作成
  • 最善の解決策の選定
  • 効果的な実行
  • 意思決定の新しい手法
  • 意思決定の重要性は増大する

<効果的な実行>

そして最後に、いかなる解決策といえども、実行に移され成果をあげなければならない。今日あまりに多くの時間が、解決策の「売り込み」に使われている。しかし、それは時間の浪費というべきである。解決策の売り込みに努力しなければならないということは二重の意味で間違いである。

第一に、それは他の人が買ってくれなければならないことを意味する。意思決定は、他の人が実際に行動して成果をあげてくれなければならない。意思決定とは他の人が行うべきことの決定である。実行にあたる人に買ってもらうのでは不十分である。彼らが自分のものにしてくれなければならない。

 第二に、解決策を売り込むということは、意思決定の結果を、買ってくれる者の意思に従属させることを意味する。そのような考えは間違っており、有害ですらある。意思決定は、買う者の希望、欲求、受け入れやすさとは関係ない。正しい意思決定は、好まれようが好まれまいが受け入れられなければならない。

意思決定の結果、売り込みに時間を要するようであっては、意思決定そのものが適切に行われなかったことを意味する。成果をあげることはできない。もちろん意思決定の結果は、実行にあたる人たちが使う言葉で彼らにわかるように示す必要がある。これは、あまり精力を費やすべき問題ではないといえ、修辞に関わる昔からの基本的な問題である。

「売り込み」という言葉には問題があるにしても、売り込みを強調することには意味がある。すなわち、意思決定はその性格上、他の人の行動を通じてのみ成果をあげることができるということである。意思決定を行う経営管理者自身は、通常意思決定の実行は行わない。彼は問題を理解し、分析し、守るべき原則を明らかにし、情報を収集する。複数の解決策を考え、判断し、最善のものを選ぶ。

 しかしせっかくの解決策も、実行があって初めて意思決定となる。ところが経営管理者自身は、通常実行にあたることはない。何を行うべきかを伝え、動機づけを行うだけである。実行すべき人が正しい行動をとって初めて、意思決定は行われたことになる。

解決策を実行に移すには、実行にあたるべき人が、自らの行動においていかなる変化を期待されているかを理解することが必要である。また、彼らとともに働くべき人たちの行動において、いかなる変化を期待すべきかを理解する必要がある。すなわち、新しいことを行うために最小限必要とされることは何かということを理解している必要がある。

とはいえ、実行にあたる人に対し、意思決定の内容を何から何まで教えなければならないものや、完全に生まれ変わることを求めなければならないようなものは、意思決定としてお粗末である。優れたコミュニケーションの原則は、重要な例外やその問題固有の特異性についてのみ、明瞭かつ正確に、曖昧なところなく伝達することである。それは経済性の問題であるとともに正確性の問題である。

しかし動機づけは心理の問題であって、したがって別の原則を必要とする。意思決定の実行にむけた動機づけのためには、意思決定そのものが実行者自身の意思決定となる必要がある。すなわち、実行にあたる人たちが意思決定のプロセスに責任をもって参画していなければならない。

もちろん問題の理解の段階から参画する必要はない。そもそも問題の理解と分類が行われるまでは、誰が参画すべきかも明らかでない。問題の理解と分類が行われて初めて、その意思決定が誰にいかなる影響を与えるかが明らかになる。また、情報収集の段階で参画することも必要ではない。望ましいことでもない。

しかし意思決定の実行にあたる人は、解決案の作成の段階には必ず参画する必要がある。その結果、意思決定を行うべき経営管理者が見落としていたことを明らかにし、隠れた問題を教え、利用可能な資源を知らせることにより、意思決定の質を向上させてくれる。

意思決定の結果は他の人の仕事に影響を与える。したがって、それは他の人が目標としているものの達成を助け、仕事を助けるものでなければならない。彼らがよりよく、より効果的に、自己実現を図りつつ、働くことに貢献するものでなければならない。意思決定は、単にそれを行った経営管理者が、よりよい仕事をより容易に行い、そこからより大きな満足を得られるようにするためだけのものであってはならない。

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