人の強みを生かす

経営者の条件(1966年)抜粋

第四章 人の強みを生かす

  • 結果を生むには利用できるかぎりの強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを動員しなければならない。強みこそが機会である。強みを生かすことは組織に特有の機能である。
  • 組織といえども人それぞれがもつ弱みを克服することはできない。しかし組織は、人の弱みを意味のないものにすることができる。
  • 大きな強みをもつ者はほとんど常に大きな弱みをもつ。山のあるところには谷がある。しかもあらゆる分野で強みをもつ人はいない。人の知識、経験、能力の全領域からすれば、偉大な天才も落第生である。申し分のない人などありえない。そもそも何について申し分がないかも問題である。
  • 成果をあげるエグゼクティブは、部下が上司たる自分を喜ばせるためなどではなく、仕事をするために給料を払われていることを認識している。
  • 人に成果をあげさせるには、「自分とうまくいっているか」を考えてはならない。「いかなる貢献ができるか」を問わなければならない。「何ができないか」を考えてもならない。「何を非常によくできるか」を考えなければならない。特に人事では一つの重要な分野における卓越性を求めなければならない。
  • 全人的な人間や成熟した人を求める議論には、人の最も特殊な才能すなわち一つの活動や成果のためにすべてを投入できるという能力に対する妬みの心がある。それは、卓越性に対する妬みである。人の卓越性は、一つの分野、あるいはわずかの分野において実現されるのみである。
  • 強みを生かすということは成果を要求することである。何ができるかを最初に問わなければ、貢献してもらえるものよりもはるかに低い水準で我慢せざるをえない。成果をあげることを初めから免除することになる。致命的ではなくとも破壊的である。当然現実的でもない。
  • 真に厳しい上司、すなわち一流の人をつくる上司は、部下がよくできるはずのことから考え、次にその部下が本当にそれを行うことを要求する。
  • 組織とは、強みを成果に結びつけつつ、弱みを中和し無害化するための道具である。
  • 人間関係論では、「手だけを雇うことはできない。手とともに人がついて来る」という。同じように、われわれは一人では強みだけをもつわけにはいかない。強みとともに弱みがついてくる。われわれはそのような弱みを仕事や成果とは関係のない個人的な欠点にしてしまうよう、組織をつくらなければならない。強みだけを意味あるものとするよう、組織を構築しなければならない。
  • 個人営業の税理士は、いかに有能であっても対人関係の能力を欠くことは障害になる。だがそのような人も、組織にいるならば机を与えられ、外と接触しないですむ。人は組織のおかげで、強みだけを生かし弱みを意味のないものにできる。
  • 仕事を客観的かつ非属人的に構築しなければならないということこそが、組織が多様な人間を確保する唯一の道である。人の気質や個性の違いを認め、かつ助長するための唯一の方法だからである。組織における多様性を確保するには、人間関係を人ではなく仕事を中心に構築しなければならない。業績は、貢献や成果という客観基準によって評価しなければならない。しかしそれは、仕事を非属人的に規定し構築して初めて可能となる。
  • 一流のチームをつくる者は直接の同僚や部下とは親しくしないということである。好き嫌いではなく何をできるかで人を選ぶということは、調和ではなく成果を求めるということである。そのため彼らは、仕事上近い人間とは距離を置く。
  • 人事の4つの原則
  1. 仕事は人の手によるものである。したがって不可能な仕事、人にはできない仕事をつくってはならない。人は、多様な知識や技能は身につけることができる。しかし気質を変えることはできない。したがって、特殊な気質を要求する仕事は、不可能な仕事、人を殺す仕事となる。組織を評価する基準は天才的な人間の有無ではない。平凡な人間が非凡な成果をあげられるか否かである。
  2. 仕事はすべて、多くを要求する大きなものに設計しなければならない。仕事はそもそもの初めから大きくかつ多くを要求するものとして設計した場合においてのみ、変化した状況の新しい要求に応えていくことができる。熱意に燃え誇るべき成果をあげている人とは、その能力が挑戦を受け活用されている人である。これに対し、強い不満をもつ人はみな、言い方こそ違っても「能力が生かされていない」という。仕事の大きさが、挑戦を受け能力を試すにはあまりに小さすぎるとき、若い知識労働者は組織を去るか、さもなければ急速に不機嫌で非生産的で未熟な中年となってしまう。
  3. 人事においては、仕事が要求するものではなく、その人にできることからスタートしなければならない。日本では能力を実証できた者だけが重要なことのすべてを任されており、重要でないことだけが組織によって行われている。具体的な成果への期待との対比においてのみ、人の成果は評価できる。人間性と真摯さに関わる欠陥は、単に仕事上の能力や強みに対する制約であるにとどまらず、それ自体が人を失格にするという唯一の弱みである。
  4. 強みを手にするには弱みは我慢しなければならない。もともと身近に仕える者の目から見て偉大な人はありえない。かわいそうなのは仕える者のほうである。彼らは、その人が歴史の舞台に呼ばれた特別の能力とは関係のないことまで見させられている。二人がかりでやれば、優れた一人の人と同じ成果をあげられると考えてはならない。二人の凡才は一人の凡才ほども成果をあげられず、互いに邪魔をし合うだけである。「欠くことができない」といわれる者は、なんとしてでも直ちに異動させるべきである。さもなければその者の強みを壊してしまう。問題ではなく機会を中心に人事を行うことこそ、成果をあげる組織を創造する道であり、献身と情熱を創造する道である。日本の終身雇用制度や欧米の公務員制度が無能を異動の理由としていないことは、重大にして正当化しえない問題である
  • 上司は部下の仕事に責任をもつ。部下のキャリアを左右する。したがって、強みを生かすことは成果をあげるための必要条件であるだけでなく、倫理的な至上命令、権力と地位に伴う責任である。
  • 組織は、一人ひとりの人に対し、彼らがその制約や弱みに関わりなく、その強みを通して物事を成し遂げられるよう奉仕しなければならない。
  • 上司の強みを中心に置くことほど、部下自身が成果をあげやすくなることはない。
  • 成果をあげるエグゼクティブも自らに対する制約条件は気にしている。しかし彼らは、してよいことで、かつ、する値打ちのあることを簡単に探してしまう。させてもらえないことに不満をいう代わりに、してよいことを次から次へと行う。その結果、同僚たちには重くのしかかっている制約が彼らの場合は消えてしまう。
  • 誰もが何らかの厳しい制約の中にいる。しかし、たとえ実際に何らかの制約があったとしても、することのできる適切かつ意味のあることはあるはずである。
  • 自らが得意であると知っていることを、自らの得意な方法で行うことによって成果をあげなければならない。
  • 強みを生かすことは、行動であるだけでなく姿勢でもある。しかしその姿勢は行動によって変えることができる。同僚、部下、上司について、「できないことは何か」でなく「できることは何か」を考えるようにするならば、強みを探し、それを使うという姿勢を身につけることができる。やがて自らについても同じ姿勢を身につけることができる。
  • 人間集団の基準というものはリーダーの仕事ぶりによって決定される。したがってリーダーこそ強みに基づいて仕事をしなければならない。
  • エグゼクティブの任務は人を変えることではない。その任務は「聖書」がタラントの例えでいっているように、人のもつあらゆる強み、活力、意欲を動員することによって全体の能力を増加させることである。

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